入管法は世界情勢の変化に伴って改正される法律です。入管法の改正は外国人の採用にも大きく影響するため、外国人を受け入れる企業は内容をこまめにチェックする必要があります。
この記事では、入管法とはどのような法律なのか、入管法の大きな改正点、2023年の改正の問題点について解説していきます。
※記載内容は2024年2月現在のものです。
入管法とは
入管法とは「出入国管理及び難民認定法」の略称であり、日本に出入国する人の管理や難民認定の手続き、在留資格、不法滞在に関する内容を規定している法律です。
出入国管理及び難民認定法(入管法)
第一条
出入国管理及び難民認定法は、本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とする。
※引用:e-Gov「出入国管理及び難民認定法」
高度な専門技術を持つ外国人に対しては円滑な受け入れを促進する一方、テロリストや日本の法律を守らない人など受け入れることが好ましくない外国人に対しては入国・在留を認めないなど厳しく対処しています。日本人と外国人が互いに尊重し、安心して共生できる社会の実現を目指して制定されました。
入管法の概要
入管法に規定されている主な項目は、次の3つです。
- 公正な出入国在留管理
- 外国人の退去強制
- 難民の認定
公正な出入国在留管理
入管法によって、入国・在留を希望する外国人に対して入国の目的などを確認し、入国・在留を許可します。公正な出入国在留管理を行い、犯罪行為を未然に防ぐためです。
入国審査に通過し在留資格を取得したとしても、在留期間を更新するときに在留資格の内容に変更があれば再度審査を行います。
外国人の退去強制
入管法では、一定の行為をとった外国人を強制的に退去させる規定を設けています。退去強制することで、「日本国内にはルールを守る外国人のみが在留している」という状態を目指すためです。
一定の行為には、次のような行動が該当します。
行為名 | 内容例 |
---|---|
不法入国 | 偽造パスポートや他人のパスポートで入国する |
不法残留 | 残留資格の期限が過ぎたにも関わらず日本に在留する |
不法就労 | 在留資格がないもしくは就労不可にも関わらず働く |
上記のような行為をとった外国人は、入管法に基づき強制的に国外へ退去させられます。
ただし、個々の外国人やその家族の状況を勘案して、例外的に在留が認められるケースもあります。入管法は、例外事項を規定することで強制退去にそぐわない外国人を保護する役割も果たしているのです。
難民の認定
入管法では、難民の認定の取り扱いも規定しています。
難民の認定とは、出入国在留管理庁に難民申請を受理されると在留資格「定住者」が取得できる制度です。定住者が取得できると、一定期間は就労制限なしで日本での居住が認められます。
また難民として認定されなくても、法務大臣により人道的に保護する必要があると認められた人には、在留資格が与えられます。
なお、2022年に日本国内で難民として認定された人は202人です。また、難民とは認定されていないものの、人道的に保護しなければならないと判断された外国人は1,760人となっています。この数は、2021年の難民認定数がドイツ38,918人、カナダ33,801人と比べると少ないです。世界と比較して日本の難民認定者数は少ないのが現状です。
入管法改正の歴史
入管法は、平成以降10回以上の改正が行われています。その中でも、特に1990年と2018年に実施された改正が外国人の入国・在留資格に大きな影響を与えました。ここでは1990年と2018年の入管法の改正点について解説していきます。
なお、入管法の改正は必ず行われるわけではなく、審議を経て改正案が廃案になることもあります。近年では、2021年に提案された入管法改正案が審議の結果、廃案になりました。
2021年の入管法改正案が廃案になった理由は、次のとおりです。
- 不法滞在者の強制帰国条件を厳しくしすぎた
- 難民申請を2回却下され3回目の申請をしている外国人を強制的に退去させる厳しい措置にした
- 強制送還を拒否した外国人には刑事罰を与えようとした
このように問題点のある改正案は否決され、また新たな改正案を出す動きへとつながっていきます。
1990年の入管法改正
1990年の入管法改正で外国人に大きな影響を与えたのが、在留資格「定住者」の創設でした。
「定住者」の在留資格とは、特定の国の難民や日系の外国人で、人道的に保護する必要がある人に対して与えられる資格です。
定住者の在留資格には在留期間があるものの、就業制限がありません。そのため、在留資格「定住者」が創設されたことで、1990年以降に外国人が急激に増加しました。その後、2008年のリーマンショックによる影響を受けて一時的に減少したものの、近年は再び増加傾向にあります。
出稼ぎに来た外国人は、勤務先のある工業地帯周辺に移住し、地域住民とトラブルになることがしばしばありました。しかし現在では、多様性を認める世論が広まっており、さまざまなサポート体制のもとで共存していく動きとなっています。
2018年の入管法改正
2018年に改正、2019年に施行された入管法では、在留資格「特定技能」が創設されました。
「特定技能」の在留資格とは、特定分野の人材不足を補うために即戦力の外国人を就労できるようにした資格です。12の特定分野が設けられており、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では認められていない単純労働も含まれています。
なお、在留資格「特定技能」で就労できる特定分野は、次のとおりです。
- 建設
- 漁業
- 造船・舶用工業
- 飲食料品製造業
- 自動車整備
- 外食業
- 航空
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 宿泊
- 介護
- 農業
- ビルクリーニング
すでに在留資格「特定技能」で在留している外国人は多く、2022年12月末の時点で130,923人が取得し就労しています。
特定技能を取得している外国人のうち1位~3位は次のとおりです。
- 1位:ベトナム人(58.9%)
- 2位:インドネシア人(12.5%)
- 3位:フィリピン人(10.1%)
特定技能の在留資格者は入管法改正から右肩上がりになっているため、今後も取得者が増えてくものと予想されます。
在留資格「特定技能」について詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
特定技能とは?資格の種類や技能実習との違いもわかりやすく解説
本記事では「特定技能」の在留資格とはなにか、特定技能で就業できる分野、特定技能の外国人を受け入れる流れなどを解説します。
なぜ入管法の改正が必要なのか
現行の入管法は問題点を抱えており、改正を議論すべき内容があります。
現行の入管法が抱える問題点は、次のとおりです。
- 送還忌避者に対する問題
- 収容に関する問題
- 難民保護に対する問題
近年、日本でもグローバル化が進んでおり、在留資格を持つ外国人は昔に比べ増えてきています。2010年の在留者は209万人でしたが、2022年には296万人まで増加しています。
※参照:令和4年6月末現在における在留外国人数について|出入国在留管理庁
しかし在留者の母数が増えたことにより、犯罪者や帰国を拒否する者も増えているのが実情です。
ここからは、入管法の問題点について解説します。
送還忌避者に対する問題
送還忌避とは、退去すべき外国人が日本国内に在留し続けることです。2022年12月末現在で、送還忌避者は4,233人いるとされています。
退去強制の対象となるのは、主に以下のとおりです。
- 無期・1年超の懲役等の実刑に処せられた者
- 薬物関係法令により有罪判決を受けた者
- 不法残留者
- 不法入国者
つまり、犯罪を起こした外国人が退去強制の対象となります。しかし、必ずしもこれらに該当する人物を退去強制できるわけではありません。
以下に該当する場合、退去強制は不可能です。
- 難民認定手続中の者で送還が一律停止してしまう場合
- 退去を拒む自国民の引き取りを拒否する国がある場合
- 送還妨害行為によって航空機への搭乗を拒否されてしまい物理的に退去させらない場合
このような人が増えることは治安上好ましくないため、入管法の問題点として挙げられています。
収容に関する問題
退去強制は決まると収容施設に入所する必要がありますが、この収容にも問題点があります。収容者の食費や医療費をはじめ、収容にかかる費用が毎年億単位で発生しているのです。
この費用の増加を招いている原因は、収容期間の長期化です。前述したように、退去強制を拒み続ける人や、退去強制者の引き取りを拒否する国が存在します。その結果、収容する期間が延びて、費用がかさんでしまうのです。
収容者の中には3年以上も収容されている人もおり、現状の入管法では対処できていないため、問題点として挙げられています。
難民保護に対する問題
現在の入管法は難民に該当する迫害の理由が限定的で、解釈の幅が狭い上に証明が難しく、難民保護の問題が起きています。
現在の入管法では、以下の難民条約の難民の定義をそのまま流用しています。
- 人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
- 国籍国の外にいる者であること
- その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること
※引用:外務省「難民」
入管法では、上記の内容の外国人しか難民として認定できません。しかし、このような条件に当てはまる人ばかりではなく、ほかの理由によって難民状態となっている人もいます。
難民条約上の難民に該当する外国人しか認定できないのは、現在の入管法の問題点といえます。
2023年の入管法改正のポイント
入管法は2023年の6月に改正されました。今回の改正は、保護すべき者を確実に保護する、送還忌避問題の解決、収容を巡る諸問題の解決、という3つの考え方を基本としています。
改正の主な内容は下記の通りです。
- 補完的保護対象者の認定制度を設け、紛争避難民など難民条約上の難民に該当しなくても、難民に準じて保護すべき外国人を「補完的保護対象者」として保護する。
- 送還の航空機内で暴れるといった妨害をするなど、強制的に退去させる手段がない外国人に退去を命令する制度を設け、命令に従わなかった場合の罰則を整備する。
- これまでの原則収容を改め、親族や支援者など入管が認めた監理人の下で、収容しないで退去手続きを進める「監理措置」制度を設ける。
- 収容の長期化を防ぐため、3ヶ月ごとに収容の必要性を見直す。
この他に注目すべき2023年の入管法改正のポイントとしては、「3回目の難民申請をしている外国人の申請を停止し、退去強制できるようにしたこと」です。
難民申請をしてわざと退去強制されないようにしている外国人がおり、その行為が問題化しています。2023年の入管法改正では、このような外国人に対して退去強制をスムーズに行い、施設の収容者を減らす狙いがあります。
しかし、いまだに日本の難民認定率は低く、本当に保護が必要な人を送り返すことになる点は懸念事項です。
この改正点がどのような影響を与えるのか、今後も注視しておく必要があるでしょう。
まとめ
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入管法とは出入国管理及び難民認定法の略称であり、日本に出入国する人の管理や在留資格、難民などについて規定した法律です。世界を取り巻く状況は目まぐるしく変化しており、変化にあわせて入管法も多くの改正が実施されています。
これまでの入管法の大きな改正は、次のとおりです。
- 1990年の在留資格「定住者」創設
- 2018年の在留資格「特定技能」創設
- 2023年の3度目の難民申請中の退去強制を可能にした条項
上記のように、入管法は日々新しい内容に更新されています。入管法の内容は外国人の採用にも影響を与えるため、改正に関する情報のキャッチアップは欠かさないようにしましょう。
近年の入管法改正の動向を見ると、専門的な技術を持つ外国人については、積極的に受け入れを進めています。即戦力となる外国人人材を確保したい場合は、外国人専門の転職エージェント「Bluee(ブルー)」にご相談ください。「Bluee(ブルー)」では、以下のように、高度なスキルを持つ外国人人材が多数登録しています。
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